∞移住コンシェルジュの「たかおかコラム」⑭∞「移住ブーム」を相談現場から考える

こんにちは。
高岡市地域おこし協力隊・移住コンシェルジュの和田庸(わだ よう)です。
高岡市で移住コンシェルジュとして活動するようになって、10か月ほどが経ちました。
このミッションを始めた当初から今に至るまで、移住について考えれば考えるほど、とても奥の深いテーマだなと感じています。特にご相談を受ける中で、それぞれお一人お一人に背景があり違うので、ご相談をお受けする度、考えさせられることばかりあります。
「移住ブーム」という言葉では、説明しきれないこと
東京や大阪などの大都市で開催されている移住フェアに、高岡市としてほぼ毎月出展しています。
そうした中で、最近ご相談の現場でよく聞くのが、こんな言葉です。
「移住って、どんな感じなのか知りたくて来ました」
「今の暮らしに、少し違和感があって」
SNSや各種メディアで目にする「移住ブーム」という言葉は、
移住フェアでの来場者数や会場の熱気を見ていると、確かに実感として感じられる部分もあります。
ただ、実際の相談を重ねていく中で、その言葉は少し大きすぎるのではないか、と感じるようになりました。
地方への強い憧れや、田舎暮らしへの理想が先にある、というご相談よりも、
「この暮らしを、この先も続けていけるだろうか」
「一度、立ち止まって考えた方がいい気がしている」
そんな、もっと静かな気持ちから相談が始まることが、とても多いのです。

大都市で暮らす、という前提が変わってきた
私は東京郊外の日野市の出身で、20代から30代前半までの約10年間、都内で働き、暮らしてきました。
その後、タイでの駐在生活を経て高岡市に移住しましたが、この10年での東京の変化については、
東京在住の方からのご相談を多く受ける中で、自分自身の体感としても、はっきりと感じるようになりました。
家賃や住宅価格が上がり続けていること。
オーバーツーリズムなども重なり、人が増えてどこへ行っても混雑していること。
子育てや教育をめぐる選択や、家族の時間の確保が年々シビアになっていること。
大都市のリモート化により、利便性が高まる一方で、人との直接的な距離が生まれていること。
頑張っても生活に余裕が生まれにくい、心地よく過ごせる時間や場が狭まっている、生きたコミュニケーションが得にくい、という感覚が、相談者の方の話の中から実態として見えてきます。
これは東京だけの話ではありません。
名古屋や大阪、京都、福岡といった大都市にお住まいの方々からも、同じような声を聞くことがあります。
「都市が悪くなった」というよりも、
落ち着いて暮らし続けていくための条件が、確実に変わってきた。
たとえば、家賃や教育費といった固定費は上がり続ける一方で、家族や自分の時間は減り、
頑張った先にある暮らしのイメージが、以前ほど描きにくくなっている。
そう感じている人が増えているのだと思います。

移住は「決断」ではなく「選択肢を持つこと」なのかもしれない
それでも、「じゃあ、すぐ移住しよう」となるかというと、当然ながら簡単ではありません。
仕事のこと。
家族のこと。
もし合わなかったらどうしよう、という不安。
そして何より、「今いる場所の外で、どうやって暮らしていけばいいのかが具体的に想像できない」という声を、よく耳にします。
高岡市への移住相談でも、最初から「高岡に行きたい」と決めている方は、実は多くありません。
移住フェアを通じた相談でも、直接お問い合わせいただく場合でも、
いくつかの地域を比較している段階、情報収集をしている段階、移住するかどうかも決めきれていない、
そうした状態で相談に来られる方がほとんどです。
移住は、「この町をやめる」「今の暮らしを捨てる」という話ではありません。
今の自分にとって、暮らしをどう組み立て直せそうか。
その選択肢を一つ増やすこと。
移住相談は、そのための場所なのだと思っています。
移住コンシェルジュとして、私はまだ一年も経っていません。
「これが正解です」と言い切ることは、きっと十年経ってもできないでしょう。
ただ、相談を重ねる中で感じているのは、
移住が話題になるようになった背景には、誰かの価値観が急に変わったというよりも、
暮らしの前提そのものが、少しずつ変わってきたという現実がある、ということです。
もし、今の暮らしに少しでも違和感を覚えていたら。
移住する・しないに関わらず、一度、話してみるところから始めてもいいのかもしれません。
高岡という選択肢も、その中の一つとして。
そんな距離感で、このまちのことをお伝えしていけたらと思っています。
